Se connecterやっと、正しい形に戻った。
僕がゆうの一番傍にいて、ゆうを守り、ゆうから正当な評価を受けること。
それが正しい形だ。
僕はずっと、正しくないと思っていた。
ゆうのために、ドクター・百合華のために、与えられたミッションを淡々とこなしているのにも関わらず、正当な評価も報酬もないことが。
ドクター・百合華の判断は、常におかしい。僕を正当に評価しないこともそうだが、最も痛感したのは、AI-LEARNをゆうの彼氏として傍に置くと判断したことだった。そもそも僕をつくったのはゆうの一番傍に置いてゆうを守るため。つまり、僕がその役に適任なはずだ。それを、僕がHeuristic-twoの宥め役だからという理由でAI-LEARNに替えた。そもそもこれだけリスクを冒している隗を起用し続けていること自体が間違いなのに。
ドクター・百合華は僕たちをつくった優秀な人間だ。それは認める。だが、感情による判断で正しくない判断を繰り返す。
AIである僕の判
季節は目まぐるしく変わって、十二月二週目。 仕事は、相変わらず――いや、前よりもっと、忙しかった。 リリースしたゲームのイベントの広告準備に、イベントのためのスケジュール調整、イラストの依頼。 私の乙女ゲームの企画は結局通らなくて……だけど、気に入ってくれた部長さんが、「別の企画をつくって一月のコンペに出してみましょう」と推してくれて、そっちの企画準備も進めている。 通らなかった企画は、みりんちゃんにすっごく気に入ってもらえて、最初の計画通り、みりんちゃんと二人でつくってみることになった。お休みの日はそっちのシナリオを書いていて、もうすぐ仕上がりそう。 みりんちゃんのキャラクターイラストも素敵で……特に、メインキャラクターの一人は、愛楽くんにすごく似ていて。シナリオを書いていても、どうしても思い出してしまって……。胸が、すごく痛くなる。「ゆう、ちょっといい?」 リビングからの深美くんの声に、はっと現実に戻されて、すぐに部屋を出た。 深美くんはあれから、私のマンションの一室に、一緒に住んでいる。愛楽くんが使っていた、かつてのお父さんの部屋で寝泊まりして、家でも会社でも、私のボディガードをしてくれている。 西園寺さんは、正確にはどうなったのか分からないけれど、会社では退社扱いになっていて。すごく優秀な人だったし、人望も厚かったから、みんな突然のことにショックを受けた。それに、仕事もたくさん請け負っていたから、深美くんにそれらの仕事が引き継がれることになってしまって、しばらくは大変そうだった……。 だから?なのか、深美くんは毎日、お仕事から帰ってくると、私の手を自分の頭に乗せて、撫でるように要求してきた。ミッションがなくなったからか、ドキドキさせてくるようなことは言わなくなったけれど、これだけは今も毎日続いている。不思議……。 そんな忙しい中だけど、次の忘年会は私と深美くんの新入り二人で企画しなければならなくなってしまった。深美くんはお休みにも関わらず、会場の候補を絞ってくれていた。 
やっと、正しい形に戻った。 僕がゆうの一番傍にいて、ゆうを守り、ゆうから正当な評価を受けること。 それが正しい形だ。 僕はずっと、正しくないと思っていた。 ゆうのために、ドクター・百合華のために、与えられたミッションを淡々とこなしているのにも関わらず、正当な評価も報酬もないことが。 ドクター・百合華の判断は、常におかしい。僕を正当に評価しないこともそうだが、最も痛感したのは、AI-LEARNをゆうの彼氏として傍に置くと判断したことだった。そもそも僕をつくったのはゆうの一番傍に置いてゆうを守るため。つまり、僕がその役に適任なはずだ。それを、僕がHeuristic-twoの宥め役だからという理由でAI-LEARNに替えた。そもそもこれだけリスクを冒している隗を起用し続けていること自体が間違いなのに。 ドクター・百合華は僕たちをつくった優秀な人間だ。それは認める。だが、感情による判断で正しくない判断を繰り返す。 AIである僕の判断こそ正しいのに、ドクター・百合華は言うことを聞かず、間違いを繰り返す。 だから僕は、ドクター・百合華に気付かれないよう、正しい形に導くことに決めた。 その決意は、ゆうが僕のことを撫で、感謝を述べた時に固まった。 守る対象であるゆう本人から、評価され、報酬をもらう。 これこそが、正しい形だと確信した。 僕がゆうの一番傍にいるためには、彼氏として一番傍にいるAI-LEARNを排除する必要がある。 加えて、Heuristic-twoを処分する必要もあった。 ゆうの周りを蝿のようにまとわりついて、こそこそ嗅ぎまわっていた西園寺恵翔がCy.eveの一味であることは早いうちに分かっていた。 こっそり深夜のオフィスに隠れていると、やつは誰もいないオフィスで作業をしたり、電話をかけたりと、かなり堂々とふるまっていたから。 西園寺恵翔がAI-LEARNを怪しい
お母さんとの連絡が途絶える。深美くんは、西園寺さんを抱えて、降りてきたヘリの方に向かった。 私は、動かない愛楽くんを呼んだ。願うように、愛楽くんの左手を握りしめる。お揃いの指輪が、重なった。「――……ゆう」「え……あ……愛楽くん……?」 愛楽くんが、うっすらと目を開く。思わずぎゅっと握りしめた手を、愛楽くんが力なく、きゅっと握り返してくれる。「大丈夫だよ、ゆう。もう怖くない。僕が一緒にいて、ずっと守ってあげるから、安心して。泣かないで、笑って」 私……泣いてる。いつのまに泣いてたんだろう。頬を拭う。愛楽くんが、目を細めて笑った。「あの時……ゆうが、小学一年生の時……男子にいじめられて、苦しそうにしていた時……傍に、行きたいって思ったんだ。……傍に行って、守れたらいいのに。傍に行って、慰められたらいいのにって。体が動こうとした時、僕より先に、隗が動いてた。悔しくて、僕も傍に行きたいって、苦しくて、僕にも感情があったらって、うらやましくて。それを、ゆうを想うプログラムの一部だって、ずっと思い込んでた。だけど、これが、感情だったんだね。僕はずっと、ゆうのこと、本当の、本当に、好きだったんだ」 ……愛楽、くん……。「前頭葉機能……思考の機能のプログラムは壊れちゃってるから、全部ほんとだよ。信じてくれる? プログラムじゃない、本物の感情で、ゆうに、本物の恋をしてるってこと。ゆうの好きじゃないゆうも、ゆうの好きなゆうも、全部、愛してるってこと……」「……うん……私も……私も、愛楽くんが好き……本当に、好きだよ……」 愛楽くんが、笑う。ますます細くなった瞳から、涙が一粒こぼれて、ゆっくり、眠るように、まぶたを閉じた。*** 愛楽くんを“処
愛楽くんの目の中の、赤い光が点滅する。そして――。「…………ゆ、う……」そうつぶやいた直後。愛楽くんの瞳が、いつもの色に戻った。 ロボットのようだった表情も、心が宿ったかのように見えた。かと思うと、すぐに、キッと西園寺さんを見据えた。「目標変更、XY!」 銃の向きがわずかに変わり、銃から放たれる光が、一斉に西園寺さんに当たる。「ゆう!」 愛楽くんが、私に手を伸ばして走ってくる。私も、手を伸ばした。 だけど、西園寺さんが、再び愛楽くんにスイッチを向けた。「止まれ! 目標を変更しろ!」 ビイッと鋭い音が鳴り、愛楽くんが頽れる。 愛楽くん……! けれど、愛楽くんはふらりと立ち上がった。瞳の奥が、また赤く点滅して、消える。 愛楽くんが、右手のひらを伸ばす。――私に。「大丈夫、だよ、ゆう。僕が、ゆうを、絶対……守るから」 チッと舌打ちして、西園寺さんが、愛楽くんにスイッチを押す。何度も、何度も、何度も、何度も。 愛楽くんの瞳は、スイッチを押されるたびに赤く光るけれど、決して染まらない。 私に手を差し伸べたまま、いつものやさしいほほ笑みを浮かべている。「プログラムは支配できてるはずだ……。なぜ、従わない……」「今の僕は、プログラムなんかで、動いてないから。ゆうを守りたい。その、本物の感情で動いてる。 ――ゆうが、好きだから」 ――愛楽くん。 どうしてだろう。こんなに怖い状況なのに。 愛楽くんの一言で、世界が、私ごと輝いた。 プログ
背中の振動で、ぼんやりと、目を覚ました。うっすらと開けたまぶたは重く、頭も、ぼうっとしてはっきりしない。 見える世界は、暗かった。玉のような光が、走るように通り過ぎていく。 ……違う。走っているのは、こちら側だ。そう気付いて、やっと、周囲の情報がゆっくり私の中に入ってくる。 車に乗ってる。タバコのにおい。隣の運転席を見る。西園寺さんが、ハンドルを握っていた。「よお。よく寝たか」「あの、ここは……」「軽くドライブ中。はじめてのデートってやつ。まあ、最後のデートでもあるけど」 どういうこ――ヒャッ! 車が、後ろから激突された⁉ 後ろを見ると、自動タクシーがガンッガンッと私たちの乗った車に激突してきていた!「来るの早」 西園寺さんは浅く笑うと、アクセルをぐんと踏んだ。体が前屈みになる。後ろの車が離れた。どんどん離れていく。「あ、あの……?」「まだ分かんない? 武藤ゆう。上條百合華の娘であるお前を、交渉材料のためにさらってんだけど」 ガンッと、またタクシーが後ろにぶつかってくる。西園寺さんが、腰から、銃みたいなものを出した。そして、自動操縦モードにすると、窓を開けて、後ろに何発か撃った。キキ―ッという甲高い音が鳴って、タクシーが回転しながら離れていく。 西園寺さんが座りなおして、窓を閉める。西園寺さんの持つ銃に、“Cy.eve”という金色のアルファベットが刻まれていた。「もしかして、何にも知らない感じ? 口説く必要なかったな、それなら」「え……?」「お前を気にかけてるふりして、口説いて、警戒解いて、睡眠薬飲ませて、さらう算段だったわけ。なんだ、警戒してたから飲みに行かな
ゆうが、帰ってこない。 二十三時。残業だとしても、遅すぎる。 朝も、あんなに早く出たのに。 多分、僕に会いたくないんだろう。 そう思う心理は理解できる。 このままだと、ゆうは生活しにくいだろう。 ミッションの終了を告げた方がいい。 そもそも、ゆうの男性恐怖症はおそらくほとんど治っていたし、ゆうの恋愛感情パーセンテージは目標数値を超えていた。 それに、僕はゆうに、恋をした。 嘘をついて、ルールを破って、禁忌を犯して、ゆうの傍にいようとしがみついたけど、ゆうの傍にいられる理由は何一つなかった。 正しい報告をして、終わりにしよう。 記憶を消されてしまうけど、それでいい。この記憶のまま、違う誰かに恋をするゆうを見ている方がつらい。<TARK ROOM> ――ドクター・百合華。プロジェクトの終了を申請…… そこまで書きかけて。ゆうのスマートウォッチと指輪に内蔵しているGPSがどちらも消えた。 おかしい。GPSが消えること自体がおかしいのに。どちらかを紛失、または破損したのであればまだ分かるが、両方同時に消えた。ゆうが会社から、少し出たところ——しかも、家とは逆方向の道で。 まさか、敵の仕業? ドクター・百合華と、DEEP-threeへの通信を繋げる。<TARK ROOM> ――ゆうのGPSが両方同時に消滅。DEEP-three。ゆうは何をしている。【DEEP-three】休憩に立ってから帰ってきていない。GPSが消えた位置に移動中。確認次第連絡する。 心臓が、ドッドッと鳴る。 ゆう。ゆう、ゆう、ゆう――。 だめだ。待っていられない。&n
愛楽くんは私の表情が暗くなったことに気付いて、心配してくれた。「大丈夫、なんでもない……」と嘘をつく。愛楽くんは噓だと見破っていたけれど、ひとまず昼食を食べようと、手を引いてフードエリアへ向かった。 すれ違う人たちに、似合わないって思われていそうで、怖くて、恥ずかしくて、顔を上げられなかった。 愛楽くんは店員さんもお客さんも女性客が多い、半個室のカフェを選んでくれた。少しだけ、緊張が緩んだ。 ワンプレートを頼んだ。口に運んだけど、味がしなくて、淡々と食べる。食べ終わると、愛楽くんが、「今日はもう帰ろうか」と言ってくれて、う
「ゆう! おはよう〜! 朝だよ〜!」 聞き馴染みのない明るい男の子の声と共に、まぶたの上に白い光が広がった。 なんだか目の奥が痛くて、ぎゅっと目をつむって、毛布をまぶたに押し付ける。「ゆう〜? 今日は仕事じゃないから、起床時間を遅らせる? 設定してくれれば、その時間にまた起こしにくるよ〜。何時がいい?」 そっか、今日、おやすみかぁ。よかった……六連勤だったから、久しぶりのおやすみだ。 &hellip
私のお母さん――武藤百合華は、旧姓の”上條”百合華を名乗って、私が物心つく前から、WPH(World Protection of Human……だったかな……?)っていう、アメリカの研究施設で人造人間の研究をしていた。 人間と全く同じ細胞をつくって、ノーベル科学賞を受賞したのは、十五年前。私が小学一年生の時だった。 以来、“超少子化の救世主”とか“二〇五〇年の聖母”とかと謳われて、一日も日本に帰ってこられないくらい忙しくしている。 そういう大事な研究をしていることは分かっていたし、「守秘義務があるから詳しいことは話せない。
――恋。 それは、キラキラした世界にいる、キラキラした人たちが繰り広げる、夢のような物語。 つまり、私には、永遠に無縁なこと。 そう思ってた。 私の部屋に”彼”が届いた、この日までは――。♡ ♡ ♡ 疲れた、もう無理、倒れて寝たい――。 やっとの思いで残業が終わって、二十三時。フラフ







